「勉強しなきゃ」と思っても手が動かない……それはやる気の問題ではなく、目標の設定の仕方が脳の仕組みに合っていないだけなのかもしれません。効率的に学習を進める鍵は、脳に「これならできる!」と錯覚させ、味方につけることにあります。
ここでは、脳を味方につけ、効率よく学習を進める「スモールステップ」学習法について紹介します。
1 「スモールステップ」学習法とは?(理論編)
人間の脳、特に情報を一時的にキープして処理する「ワーキングメモリ」の容量には限界があり、目の前に巨大な課題があると、脳は「処理不能な脅威」と判断して、ストレス反応を起こし、思考を停止(フリーズ)させてしまいます。
したがって、大きな課題を細かく分解し、脳に「これならすぐ終わる」と安心させることが重要となります。小さなステップをクリアする、あるいは「クリアできそうだ」と予感するだけで、脳内ではドーパミンが放出され、自発的なモチベーションが生まれます。
この小さなステップを積み上げて、最終的に大きな課題を達成するのが「スモールステップ」と呼ばれる学習方法です※1。
2 具体的なアクションプラン(実践編)
例えば「数学の問題を20問解く」という目標。これをそのまま始めると脳がフリーズしてしまうかもしれないので、脳の仕組みを活かして次の3つのステップを実践してみましょう。
・Step1: 道具(教科書や筆箱)を出す(「作業興奮」を利用)
やる気を司る脳の「側坐核」は、実際に行動を始めないと活動しないという性質があります(=作業興奮)。よく「やる気が出たらやる」という人がいますが、脳科学的には「動くからやる気が出る」というのが正解です。まずは机に向かい、道具を出す。この「5秒で終わる儀式」が、脳のエンジンを起動させるスイッチになります。
・Step2: 例題を1問だけ解く(「ツァイガルニク効果」を利用)
人は、未完成のものほど「続きが気になる」という性質があります(=ツァイガルニク効果)。まずは例題1問だけでОK。あえて「中途半端に始めた」状態をつくることで、脳は「このまま終わるのは気持ち悪い」と感じ、自然と「続きをやりたくなる」モードに切り替わります。
・Step3: 4問だけ解く(「マジカルナンバー4」と「メタ認知」を利用)
脳がスムーズに処理できる情報の塊は4つ前後(=マジカルナンバー4※2)といわれています。一度に20問という「大きな塊」を追わずに、まずは「4問1セット」に区切ってみましょう。4問ごとに「本当に理解できているか?」と自分を客観的に振り返る(=メタ認知)ことで脳への負荷が抑えられ、知識が整理されて定着しやすくなります。
3 挫折しないための「心理テクニック」
習慣が続かない…そんなときに役立つ、脳の仕組みを活かしたテクニックを紹介します。
・If-Thenプランニング
「Aをした後には、Bをする」という条件と行動をセットにして、習慣を自動化する手法です。例えば、「お風呂から上がったら、単語帳を5枚だけめくる」と決めておきます。あらかじめ「いつやるか」を脳に予約しておくことで、自然と体が動くようになります。
・ポモドーロ・テクニック
25分集中+5分休憩のサイクルで学習を進める方法です。休憩中はスマホを見るのではなく、目を閉じて「ぼーっと」するのが正解。このとき脳のバックグラウンド処理(デフォルト・モード・ネットワーク※3)が働き、バラバラだった情報を自動的に整理・連結することで、確かな「知識」へと定着させてくれます。
4 終わりに
もし、頑張ろうと思っていた4問全部が解けなくて3問で止まっても大丈夫です。Step1の「道具を出す」ができた時点で、あなたの脳のエンジンは間違いなく動き出しています。その小さな「成功」を積み重ねることが、最強の学習スキルを身に付けることにつながります。
大きな山を登る唯一の方法は、目の前の石を一つ飛び越えることです。「スモールステップ」学習法で、脳を味方につけ、効率よく学習を進めましょう。
※1スモールステップには、①難易度のステップアップ(「簡単な問題→少し難しい問題→応用問題」といった、知識や技能の積み上げを意識したステップ)と②行動のステップ分解(行動のハードルを下げることを意識したステップ)の2種類があります。ここでは、主に②に焦点を当てて説明しています。
※2マジカルナンバーとは、人間の「短期記憶」に関しての原則を示す考え方で、かつてはジョージ・ミラー教授が提唱したマジカルナンバー7(1956年発表)が主流でしたが、近年はマジカルナンバーを「4±1」とするネルソン・コーワン教授のマジカルナンバー4(2001年発表)が定説となっています。
※3特定の作業に集中していない時に働く脳の動きで、ぼーっとしている時に良いアイデアが浮かんだりするのは、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)によるものだと考えられています。
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