記憶には、意味記憶(知識記憶)とエピソード記憶(経験記憶)の2つがあります。
意味記憶とは、「1776年に独立宣言が出された」とか「ペンギンは飛べない」など、自分の日常生活とは関係ない(けど覚えなければいけない)記憶、いわゆる教科書で学習した知識等に関する抽象的な記憶のことです。これに対して、エピソード記憶は、「そういえば、去年の今頃この交差点で事故にあいそうになった」とか「この階段でつまずいてケガをした」など、日常生活の中で経験したことが関係した具体的な記憶のことです。
人間の脳の記憶領域の容量は大きくないため、脳は生命維持に重大な影響を与えるものなどを優先的に記憶し、あとの事柄はなるべく忘れるようにできています。つまり、エピソード記憶は残りやすく、意味記憶は忘れやすいということになります。
記憶については、従来、記銘→保持(符号化)→再生というプロセスを経て、記憶したオリジナルな記憶がそのまま引き出されると考えられてきました(記憶のコピー理論)。これに対して、イギリスの記憶心理学者バートレットさんは『想起の心理学』(1932年)の中で、人間はみな物語作家であり、何かを思い出すということは話を創作することであると提唱しました(記憶の再構成理論)。
それでは、しっかり記憶するためには、どのような工夫をすればよいのでしょうか?
1 覚える内容を物語化する
私たちは、歴史の年号や数学や理科の公式を覚えるときなどに、よく語呂合わせを使います。「794年 平安京遷都(鳴くよウグイス平安京)」「√5=2.2360679(富士山麓オウム鳴く)」などの語呂合わせは、何十年経っても覚えているという人も多いのではないでしょうか。このような工夫は、記憶の持つ物語構造を利用した記憶法の一つといえます。このように、覚えたい内容を物語化していくことで、意味記憶をエピソード記憶化していくことができます。
2 人に話す(または実演する)
人に話すと忘れないといわれます。また、作業手順などは、実際にやってみることが大切だといわれます。これには記憶を強化する、次の2つの機能があるからだと説明できます。
①人に説明すると、自分の言葉による音響に加えて、話しかけている場面も視覚的映像としても記憶されるため、記憶として定着しやすくなります(複数モダリティ符号化説)。漢字や英単語を覚えるときに、文字を見るだけではなく、実際に書いたり、発音したりしながら覚えるとよいというのもこの考え方の応用です。
②相手に分かってもらうように説明を考えていく過程で、説明の素材や論理の組み直しといった工夫が進み、新たな意味付けや連想によってより深い記憶として定着しやすくなります(記憶の精緻化)。これに加えて、相手に説明していく過程で、自分の理解できていないことに気付き修正をしていくという効果もあります(メタ認知)。
中学生や高校生のみなさんは、覚えるためにどのような工夫をしていますか?
そして、保護者や教員のみなさんは、我が子、生徒がしっかり覚えられるようどのように支援していますか?
◎主に参考とした本:榎本博明『ビックリするほどよくわかる記憶のふしぎ』(サイエンス・アイ新書)ソフトバンククリエイティブ 2012年