「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の「中間まとめ」では、これら以外にもいくつかの提言を行っていますが、第2章の「学校間連携による単位認定」(2-3)の制度の活用についても提言しています。
「学校間連携による単位認定」の制度は、令和6年3月末の時点で、広島県の全日制の課程の公立高等学校でこの制度を自校の単位を認定する制度として活用している学校はありませんが、他県では、何らかの理由で、長期欠席が見込まれる生徒への支援策の一つとして、この制度を活用して成果を上げているところもあります。
「中間まとめ」で示された通信教育の活用を全日制の課程・定時制の課程ではじめた場合、それぞれの学校ごとに生徒の実情に応じた指導・支援が可能となることやオンデマンド型での学習が可能になるという点ではメリットが大きいといえますが、その学校で、通信教育に適した指導・支援のノウハウがなかったり、日々の教室で行う授業の準備に加えて通信教育用の教材等の準備も必要になったりするなど、教員の負担が増大し、全体的に教育の質が低下するかもしれません。
これを「学校間連携による単位認定」の制度の活用で考えると、全日制の課程・定時制の課程の高等学校の生徒・教員だけではなく、連携先の通信制の課程の高等学校の生徒・教員にも大きなメリットが生まれます。
学校間で連携することにより、全日制の課程・定時制の課程の生徒は、通信制の課程の高等学校の教員から通信教育に適した内容・方法で指導・支援を受けることができるとともに、全日制の課程・定時制の課程の教員は、通信教育用の教材の準備等の負担を軽減することができるというのは大きなメリットでしょう。
それでは、通信制の課程の生徒・教員にメリットはあるのでしょうか?
「学校間連携による単位認定」の制度は、全日制の課程・定時制の課程の生徒が通信制の課程の授業を受ける場合だけではなく、その逆の場合にも適用されます。
通信制の課程の高等学校に通いながら、大学等へ進学したいという生徒は少なからずいます。大学等へ進学するためには、一定程度の学力が必要となります。しかし、通信制の課程の高等学校には、進学等に対応した発展的な学習ができる科目があまり多くはないということについては第5章(5-6)でも述べたところです。
広島みらい創生高等学校については、通信教育コースに在籍する生徒で、大学等への進学のために発展的な学習を希望する生徒は、「定時制課程及び通信制課程の併修による単位認定」の制度を活用して、通信教育コースにはない発展的な科目が多く開設されている平日登校コースの授業を受けることができます。
しかし、それらの科目を全日制の課程のいわゆる進学校で受けることができれば、当該生徒にとって刺激となることは間違いありません。広島みらい創生高等学校で受けたい生徒はそうすればよいでしょうし、武者修行のつもりで、全日制の課程のいわゆる進学校で受けようとすればそれもできるというのは魅力的でしょう。
また、日曜日は、これまでどおり広島みらい創生高等学校の通信教育コースで学習を進めるが、月曜日から金曜日は、自宅からの通学に便利な近隣の全日制の高等学校で特定の科目のみを学習したいという生徒のニーズもあるかもしれません。
そのように考えれば、このネットワークは、全日制・定時制の課程の生徒のみにメリットがあるのではなく、通信制の課程の生徒にも大きなメリットとなります。
通信制の課程の教員についても、発展的な学習にかかる指導・支援を全日制の課程・定時制の課程の高等学校の教員とともに行うことができれば、その負担は確実に軽減されるに違いありません。
そのためには、全日制・定時制の課程の高等学校と通信制の課程の高等学校がネットワークで結びつくことが必要です。高等学校が相互に協力しながら、それぞれの高等学校へ入学した生徒を、それぞれの学校・課程という枠組みを超えて全体で支援していくというパラダイムシフトです。
ただし、この制度で単位認定できるのは36単位までで、万能ではありませんが、強力な生徒支援策となるのは間違いありません。
ちょっとしたきっかけで学校に行けなくなり、結果として転学や中途退学となってしまっているのは生徒個人の資質や性格などに問題があるからではありません。そのことは、前籍校で学校へ行けなくなり、通信制の課程の高等学校(広島みらい創生高等学校や東高等学校)に転学してきた生徒たちがしっかりと学習を進め、卒業していっている事実から間違いありません。
「はじめに」でも述べましたが、高等学校の年間の不登校生徒数68,770人(令和5年度)という数字は、それぞれの高等学校が単独で多様な生徒を支援するということはもはや限界にきていて、彼ら・彼女たちの希望に応えることができない状況にきていることを示しているのではないでしょうか。
広島みらい創生高等学校など通信制の課程の高等学校は、中学校時代にあまり登校できなかったけれどもう一度学び直したい、やり直したいという生徒には、希望を与えることができる学校ですが、高等学校に入学して登校できなくなってしまったという生徒に対しても、転学することなく自校で学習を進めることができるという希望を与える学校となれるよう、これからも新しい学びのスタイルをつくっていってほしいと思っています。
