このように通信制の課程の高等学校へ転学してくる生徒の中には、本当は自分が入学した学校で、友人と一緒に卒業したかったが、それができなくなってしまったから、せめて同時期に卒業したいと思って、やむを得ず通信制の課程の高等学校へ転学してくるという生徒もいます。
そのような生徒の思いに何とか応えることができるように、広島みらい創生高等学校や東高等学校では、様々な学びの仕組みをつくって生徒の学習支援を行っています。しかし、それらは「転学」という前提で成り立つもので、「転学」してこなければどれも役に立たないものばかりです。
それでは、学校へ行こうと思っても行けないというこのような生徒に対して、現在、国はどのような施策を取っているのでしょうか?
文部科学省は、2023(令和5)年3月に取りまとめた「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)において、特別の教育課程を編成して教育を実施できる「不登校特例校(令和5年8月の通知で「学びの多様化学校」へ名称変更)を、早期に全ての都道府県・政令指定都市に、将来的には分教室も含め300校の設置を目指すとしました。
この「学びの多様化学校(不登校特例校)」というのは、文部科学大臣の指定を受ければ、高等学校の場合、全日制の課程及び定時制の課程の高等学校において、不登校の生徒を対象として「通信の方法を用いた教育により単位認定を行うこと」を、36単位を上限として認められた学校のことです。
2025(令和7)年11月現在、この指定を受けている学校は全国で59校(小中一貫校は1校分としてカウント)ありますが、そのほとんどが小・中学校で、高等学校で指定を受けているのは11校(鹿児島城西高等学校、NHK学園高等学校、星槎高等学校、生野学園高等学校、精華高等学校、岡山県美作高等学校、星槎国際高等学校、秋田修英高等学校、福岡海星女子学院高等学校、福岡県立小郡高等学校、慶成高等学校)しかありません。
このうち、高等学校の中で一番早く学びの多様化学校の指定を受けたのは私立の全日制の課程の鹿児島城西高等学校です。2006(平成18)年に指定を受けたこの学校では、普通科の中に「ドリームコース」を設け、不登校状態がそれぞれ異なる個々の生徒にきめ細かな教育を提供できるよう取組を進めています。
また、福岡県立小郡高等学校は、2025(令和7)年度に全国の公立高等学校で初めて学びの多様化学校に指定されました。この学校では、普通科の中に「みらい創造コース」を設け、1クラス20名程度の少人数学級編制を行い、SC(スクールカウンセラー)、SSW(スクールソーシャルワーカー)を配置するなど、教育相談体制を充実させています。
しかし、このような取組も生徒がその学校へ在籍しないと特例を受けることができないので、「今の学校で友人たちと卒業したい」という生徒の切実な思いに応えることはできません。
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