これまでに定時制の課程・通信制の課程の高等学校には、生徒の学びをフレキシブルに支えていく様々な仕組みがあることを、広島みらい創生高等学校を例にしながら説明してきました。
しかし、そのような様々な仕組みを持ちながら、解決できない課題があります。それは、他の高等学校から転学してくる生徒です。
第3章(3-4)でも説明したとおり、広島県では、全日制・定時制の課程の高等学校から全日制・定時制の課程の公立高等学校へ転学しようとする場合は、「原則、保護者の転勤等に伴う転居等一家転住者であり、一家転住により、現在通学している高等学校(国公立・私立は問いません。)に物理的に通学できなくなった場合」(広島県教育委員会他『令和6年度用 広島県の公立高等学校へ転入学を希望する生徒・保護者の皆様へ』)という要件を満たさなければなりません。つまり、福山市から広島市へ一家転住しなければならないなどの事情がなければ、全日制・定時制の課程の高等学校への転学はできないということです。
転学を考えなければならない生徒の中には、現在在籍している学校でのちょっとした人間関係が原因であることもあります。このような場合は、近隣の高等学校へ転学することで、学校へ登校できるようになるかもしれませんが、現在の制度ではそれは難しいといえます。
広島県で、現在在籍している全日制・定時制の課程の高等学校から近隣の公立高等学校への転学が唯一認められているのが通信制の課程の高等学校への転学です。広島県には、通信制の課程をもつ公立高等学校としては、第5章(5-2)でも説明したように福山市にある通信制の課程の単独校の東高等学校と定時制の課程との併設校である広島みらい創生高等学校の2校しかありません。
いずれにしても、全日制・定時制の課程の高等学校から近隣の公立高等学校へ転学しようとしたら、現在の制度では通信制の課程の高等学校への転学しかできないということになります。どうしても全日制・定時制の課程の公立高等学校に転学したいということになれば、現在在籍している高等学校を退学して、編入学試験を受けるか、自分より年齢が下の中学生と一緒に入学者選抜を受けるしかありません。
その場合は、退学という履歴が残ってしまうのと、試験を受けたからといって必ずしも合格できるとも限らないので、最悪の場合、どこの学校にも合格できずに浪人ということになるかもしれません。